ゆっくり食べる女
今日ワシは、退社後、駅ターミナルの食堂でちゃんぽんを食った。昼を軽く済ませたせいか妙に腹が減ったので食って帰ろうと思った。最近、家内が疲れた病でまともな夕食を作っていないこともあって、食って帰ってやれという気にもなっていた。ちゃんぽんの麺の量が1.5倍で値段は一緒、餃子も5個ついている。食券を買ってカウンターに座った。隣には30代半ばのOL風女性が、皿うどんを食っていた。残り4分の1くらいで間もなく食事が終わるかなという感じだった。店員が食券を取りに来て元気な声で注文が厨房に飛んだ。女はしっとりになった皿うどんの麺を少量ずつ箸でつまみ口に入れている。ワシだったら3口で完食だ。ほどなく注文のちゃんぽんと餃子がきた。ワシは食べ始めた。日ごろ早食いではないが、腹がへっているせいか普段よりは早めのピッチだ。ふと隣を見ると、女は相変わらず、野菜一片ずつ、麺数本ずつつまんで食っている。このままだと、ワシのほうが女よりも早く食べてしまう。量が違うといっても、ワシが注文したときには、女の皿うどんは残り4分の1になっていたのだ。スタートラインがここまで違うのに、ワシの方が早く食べてしまったら、この女は、「何と下品なおっさんだろう。」と思うかも知れない。ワシは心ならずも食べるスピードを落とした。時々横目で女の皿うどんを見ては、「早く食って出ろ! このババアが。」と心の中で呟きながら、女を意識して食べるスピードを調整していた。この状態でも、ワシの方が早く食べ終わりそうだから、一口で食べる餃子を2口で食べたり、そんなに多くは飲めないちゃんぽんの汁を蓮華でゆっくりとすくって飲んだり、ワシなりに苦労しながら食っていた。皿うどんが空いた。やっと女が帰る。と思ったとたん、女は皿にへばりついた麺の切れっぱし、2mmか3mmか知らんが、それをひとつずつ器用にも箸でつまんで口に入れている。そんなことせんでいいから早く帰ってくれと、泣きたい、しかし怒鳴りたい気持ちでワシはちゃんぽんをすすっている。ワシも完食間近だ。こうなったら意地でも、女よりは早く食べ終わらないぞと決心し、ちゃんぽん麺1本をスルスルと吸い込んだ。次は餃子の3分の1を噛み切って口に入れた。次はキャベツ一片だ。そうこうしているうちに女の皿はきれいになった。これで本当に女は帰る。ホッとした。女はコップをもった。最後に一口水を飲んで帰るらしい。心に安らぎが戻り残り3口になったちゃんぽんを一気に食べようと思った瞬間、愕然とした。女はコップの水を少しだけ口に含み、コップをテーブルに置いた。5,6秒してまた少し水を飲んだ。コップに残っている水の量から判断すると、水を飲み終わるのに1分はかかる計算になる。これは長すぎる。ワシのちゃんぽんが追いついてしまう。ワシも意地になっているから、水をお代わりすべくポットを取りよせ、コップ一杯に水を注いだ。そして水をゆっくりと飲み始めた。女は途中で水を飲むのを止めた。やっと勝ったか。ワシは勝った喜びすらなく、ただあるのは虚しさだけだった。いい年こいた大人が何やってんだと神様があきれているだろうよ。ところが最後、女は携帯電話を開いてメールを見だしたのである。ワシの怒りは頂点に達し、残ったちゃんぽんも食う気が失せ、一気に水を飲み干し、女よりも早く店を出た。そして言った、「何やってんだ! このばか女! 麺類はな、ズルズルと威勢よく食べるもんじゃい! そして最後にぐっと一口水を飲んで、御馳走さん! と言って帰るんじゃい! 麺の食べ方も知らんのか、この行けず後家が!」と心の中で。あーあ。730円がもったいなかったなー。
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テーマ : 食品・食べ物・食生活 - ジャンル : ライフ